今更昔話 “パリ・モンマルトル墓地”
Est-ce que vous avez une chambre moins cher ?
暗記して主人に尋ねる。
即座に3階の部屋まで案内してくれる。屋根の傾斜を受けてるせいか、窓から外がわずかに望める。まるで屋根裏のようだった。あるじが骨董品を指差し何度もナポレオン、ナポレオンと言うので、たぶんその時代からあるのだろう。いかにも古い建物を改造したと伺える☆1ホテルだがツタの絡まった外観の趣は、じゅうぶんユトリロの絵だった。
あんのじょう部屋のバスコックが壊れていたが、これも時代のエスプリ。
宿から石畳の坂道を登ってテルタル広場、似顔絵描きをふりきって坂道を下って少しモンマルトル墓地。
フランソファー・トリュフォーの墓はシンプルな大理石、いつも花が飾られているらしい。その他にアレクサンドル・デュマ、モーパッサン、ギュスターブ・モローなど著名な人たちが眠っている。モーパッサンの墓標には「生きた、書いた、愛した」と。日本と違って土葬なので何となく重みを感じたものだ。
映画の話を。私にとってトリフォー映画は「突然炎のごとく」が最初だったが、ああいった恋愛の型には国民性や文化の違いなのか付いていけなかったのを覚えている、共感の持てなかった作品がその年、キネマ旬報ではベストだった。
ずいぶんと経った今、あらためてトリュフォー映画の私的ベスト3は『日曜日が待ち遠しい』『隣の女』『柔らかい肌』。
『日曜日が待ち遠しい』では、足早にカッカッとハイヒールを響かせて歩くタイトスカートのファニー・アルダンがとにかくいい。トリュフォー曰く「女の足と歩く姿ほど美しいものはない。」と。
『柔らかい肌』でもカメラの運び具合からして、脚線に対しての執着が浮かびあがってくる。しかしそれは生々しいものでなく少年の女への憧れみたいな純粋さが感じられる。たぶんトリフォーはマザコンだったかも知れない。
『隣の女』これは実に怖い映画だった。これもファニー・アルダン、共演がジェラール・ドバルデュー。ラストシーンはジャンヌ・モローのナレーションで「一緒では苦しすぎる、一人では生きてゆけない。」とあるが、まあこれが恋愛の本質なんだろうか。