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2011-12-31

最近のお話 “裕&忠”

佐渡裕/Berliner Philharmoniker (2011/5/20~22)

                    榎忠/Hyougo Museum of Art (2011/10/12~11/28)

日頃親しくお付合いしている友人のなかで、この二人の2011年の活動は私たちに大いなる感動を与えてくれた。
5月に佐渡氏がベルリン・フィルを指揮したことは日本はおろか世界中のメディアに取り上げられた。世界の数多い名指揮者のなかで ほんの一握りの指揮者がこのオーケストラのタクトを振る、とても名誉な第一歩だった。
後に放映されたテレビのなかで、インタビューに対して楽団員の答えはすごく厳しい世界を語っていたがさすが世界に君臨するオーケストラであると思い知らされた。しかし彼の原点は常に変わらない、名門オーケストラの指揮も30年前の高校吹奏楽部の指揮も同様、夢中になって音楽に向かう圧倒的な熱意はベルリン・フィルにも浸透していった。
佐渡さんのこれまでを思うと、音楽の世界で特に少々肩肘はったイメージのクラシックのジャンルに新しい風を吹き込む開拓者のようだ、いやむしろ冒険者といったほうが相応しいかもしれない。
ごく普通な気持ちで聴ける気さくな環境作りをしてきた人物が、じつはもっと普通だった。
いつだったか阪神・巨人戦(甲子園)のとき、二人とも喫煙ルームに行きたくなって通路階段を登っていったらあっちこっちから「佐渡さーん」と声が掛かる、庶民的おばさんからおっさんである。聞いてみたら今津商店会の市場の人たちやと云う。オーケストラを指揮しながら楽団員から聴衆まで応える佐渡さん、市場の人たち相手に普通の親しみを持って応える佐渡さんは、大人物だ。
今秋の県立美術館で開催された『榎忠、美術館を野性化する。」は榎忠の集大成ともいえるスケールの大きさだった。
彼の作品は、すべて鉄、金属が素材。銃や薬莢、大砲など現代社会における刺激的な題材を扱った作品、多量に生み出される金属の廃材に新しい生命を吹き込んだ作品などが美術館に溢れた。どの作品も圧倒されるが中でも、金属部品を丹念に磨きあげ、積み木のように積み上げたインスタレーションによる近作だ、ライティングの移動により表現される様々な幻想を生み出す世界は圧倒的だった。たぶん彼の積年の思いとエネルギーが込められた充実作だと、私は勝手に思い込んでいる。(写真は当美術館のものではない)

銃や大砲などの作品表現は、ややもすれば極端な解釈をされる場合もあるが、彼が常に云っている言葉がある。
「殺人兵器って人間が考えたものやん。でもそれを扱うのも人間。人間って凄いんやけど、もの凄く怖いし、愚かやし。欲だらけだし。今日も世界では何万と人が 死んでいるかもしれない。だから作品のような表面的に見立てて、反戦とか、戦争は賛美なのか?とかそんな問題では無くあんなん作りだす人間の根底にある恐 ろしさ、怖さ、欲いうもんに対しての凶悪的なものを表現してみたかった。」と。
人が好きで限りなくあつい男、ゆるぎない信念をもって独特の美の世界を作り出す”忠さん” 、お疲れさん。

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