2012-05-29
最近のお話 ”形見”
母親が亡くなってもうすぐ1年になる。
95歳の生涯であったが最後の1年は病院生活を過ごした、“最期までこの家で”というのが彼女の言いぐせだった。理想に近いこの思い、うちのおじいさんが亡くなった時代は「自宅での死」が80%だったからだ。医学の進んだ今9割近くは病院死、まず在宅療養の難しさからだろう。
誰もがいつかは抱かえるこの課題、ともかく母親の理想は叶わなかったが長生きしてくれた。母親の歳まで自分はあと30年は生きれる計算だ。
黒澤映画『夢』の第8話「水車のある村」の一場面で、寺尾聰扮する主人公が旅先で静かな川が流れる水車の村に着き、壊れた水車を修理している103歳になる老人(笠智衆)に出会う。
この地の村人たちは近代技術を拒み自然を大切にしている、人間も自然の一部であると説かれ、興味を惹かれる。そして老人は手に鈴を持ち初恋の人であった老婆の葬式に向かう。老人が別れ際に云う、「長生きして、ご苦労さんと言われて死ぬのはめでたい」「生きるっていいもんだよ」と語る。
映画ではあるが、このように肯定的に生きるこの老人の1シーンが、ふと頭によぎるときがある。人生捨てたものではない、と思えてくる。
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